る*しろう「8.8」(2004年 ツチノコ・レーベル) フォルクマール・マンタイ(Volkmar Mantei) www.ragazzi-music.de

2004年。最高の年だった。でも、ぼくの個人的な印象なんだけれども、アルバム「8.8」でもって、アーヴァック(Ahvak)なんか今年出た凄いアルバム全部を上回っちゃうバンドが、たったいま、現れた。 それが、る*しろう (Le silo)だ。このアルバムは、日本ではもう4月に発売されていたんだけど、バンドもCDもヨーロッパではまだ知られていない。 というのも、残念ながら、日本でのプレス数が比較的すくなかったので、あっという間に売切れてしまったからだ。 井筒好治(ギター、ヴォーカル)、菅沼道昭(ドラム、ヴォーカル)、金澤美也子(ピアノ、ヴォーカル)は、最初の数秒で空気(Luft)と感覚(Sinne)を完全につかむ。 構成は、荘厳に聳え立つ建築物のように、エレガントで、クラシックで、深遠だ。レコーディングはハードで、躍動感あふれ、アレンジは真面目な調性から、無調の破壊へと揺れ動いていく。 それを、ふつうは、プログレッシブ・ロック、アバンギャルド、フリー・ロックなどという。ジャズ純粋主義者だったら、フリー・ジャズという、それに相応しいジャンルの「証明書」をこのアルバムに対して発行するだろうし、メタルヘッズならばアバンギャルド・ハードコアと呼ぶだろう。 だれもが、自分のお気に入りの引き出しに、このアルバムを求め、そして、それぞれ、自分のところに上手にしまい込むことだろう。 じっさいのところ、る*しろう(Le silo)の音楽は、ボーダーレスで、特定のカテゴリーに分類することができないけれど、アルバム「8.8」は、正真正銘、クラシックなアルバムだ。 というのも、このアルバムは、ロックの楽器によるポップな録音(U-Einspielung: U=Unterhaltung)にもかかわらず、クラシック音楽のような非常に高い「真面目な」クオリティ(E-Charakter: E=ernst)をもっているからだ(でもやっぱり、それにもかかわらず、狂乱のロックなのだ!)。 レコーディングのさい、きっと、このトリオはもの凄く楽しんだはずだ。 たくさんのユーモアが音符の間、音の間にはさみこまれている。興奮(Verve)と生気(Elan)をともなって、集中して、調和のとれた全方向に向かってバンドが火花を散らすときには、曲はまさに無調への破壊の真っ只中にある。ノーマルなロックの構造(かたち)がみられるのは、ほんのわずかな瞬間だけだ。 このバンドはスポーツをするように前進していく。競技場の隅々を見て、スペースを使い、ボールをパスしあう。深く計算された構成と厳密に秩序立ったアドリブとが、狡猾な重みのある、精確に狙いをつけられたストロークによって釘付けされている。 このトリオの演奏は、決して穏やかではないし、かといって粗放なわけでもない。一瞬、一瞬が、ハードで、荒々しく、精密で、アグレッシブに演出されている。 はじめにクラシックを学んだ金澤美也子には、豪快で、クリアで、精確な演奏テクニックがあり、そのテクニックで、鋭く角張った破片、すなわち、心地よくぞくっとするような戦慄を背筋に駆り立てる旋律を生み出していく。 金澤美也子はクラシックからの影響を持ち込んでおり(たとえパンク出身であったとしても!)、二人のジャズ=アヴァンギャルト=プログレ=ロッカー(Jazz-Avant-Prog-Rocker)は、この影響にガッチリとかかわる術を熟知している。 例えば、カーラ・ブレイ(Carla Bley)がリヒャルト・ワーグナー(Richard Wagner)を辱め、1972年代のロバート・フリップ(Robert Fripp)が、戦後活躍したオリビエ・メシアン(Olivier Messiaen)を(物理的に不可能なことは度外視するとして)圧倒したとき、かれらが、当時としてはおそらくまだ耳慣れない、びっくりするような曲をひねり出したように。結果として生まれたこの12曲は、とてもエレガントなものとなった。 いっぱいの激情をもった、彫刻のような形態の、ぐつぐつと沸き立つ音楽に!  金澤美也子はパンク出身だ。 プログレとパンクとの、妥協なき無礼さともの凄い急進性との間には、たしかな平行性がある(もしプログレを、ただシンフォニック・ロックと解することがないとするならばだが……万一、そんなふうに解釈すれば、プログレは、一元的でひどく退屈なものになってしまうだろう)。 このバンドはプロデューサー・吉田達也と出会った。菅沼道昭を、かれは、ドラマーのお手本(テクニック、演奏の仕方、ダイナミックさ、複合性、バリエーション、安定性)としても、しっかりと仕立てあげた(しかも、吉田達也は、プロデュースのみならず、2曲で、自身の、好評のヴォーカルを加えている)。 はじめ、ポリフォニーの曲のうちのひとつだけが単独で敬意を払うべきもののように思われ、ぼくは心のなかで参りましたと頭を垂れたんだけど、この驚愕の60分のうちに、豪快で独創的な12の作品の荒々しい集まり全体が、完全に、ぼくを溶かしきってしまった。 プログレッシブ音楽という可能性のスケール(目盛り)があるとして、このアルバムは100の可能性のうちの到達可能な98点を獲得している (上へのほんの少しのスペースは、いつも残しておいた方がいいんじゃないかな?)。 ぼくは、すべてのプログレ・フリークに、すぐに、このCDを買うように、「ぜったいに」お薦めする。CDがなくなる前に。もう二度と手に入らなくなるぞ。ディスクマンをして、道を歩いているひとがいる。 頭をもたげて。それでも、かれは、すっかり没頭して、恍惚状態になっているはずだ。この世の天国! フランク・ザッパ(Frank Zappa)はかつてこう言った。「音楽は最高だ」。まったくそのとおり! 残しておくべき逸品だ!

訳:星 揚一郎 (る*しろう 東海支部員) 2005年3月20日 改訳  


2005年3月 る*しろう インタヴュー 創造性

  あるひとりの友だちが、ぼくを「る*しろう」のところに導いてくれた・・・。 2004年、ぼく一押しのアルバム「8・8」のレヴューは、もうずいぶん長い間、 このHPにアップされていたんだけど、最近になって、日本からドイツ語で書かれた メールが届いた。「る*しろう」の友だちからだった。レヴューを日本語に訳したと いうことと、いくつかの質問が書いてあった。それからすぐに「る*しろう」の金澤 美也子(ピアノ)が英語でメールをくれた。それから、美也子とぼくは、ずいぶんた くさんのメールのやりとりをして、最終的に、ぼくは、いくつかのインタヴューの質 問を美也子に送り、それに対して、美也子は、友だちの助けを借りて、英語で答えて くれた。それを、もう一度、ドイツ語に訳したのを、ここにアップする。あまりに短 かくしすぎて意味不明になってなければいいんだけど。 ragazzi (以下、R):いつから「る*しろう」は活動しているの? いつ、どんな 状況で結成されたの? 金澤美也子(以下、M):わたし、美也子が、1994年にElegant Punkを結成しま した。わたしはヴォーカルでした。いくつかのインスピレーションは、東京のセン ター「Visions」から得られました。その音楽は特別な音楽スタイルをもっていませ んでした(しいて言えば、奇妙なロックとでも言いましょうか)。すべて、まず ヴォーカルではじめて、それから、わたしたちは楽器のために音楽全体を書き換えま した。そこから1999年に「る*しろう」が、もう一度、Elegant Punkの、わた し、美也子によって結成されたんです。そのとき、バンドは有機的なトリオに変わり ました。わたしたちは、さまざまな形態のプログレ・サウンドを追及して、そこから 「る*しろう」の音楽が生まれたのです。 R:音楽に対するきみの考えは? M:わたしはあらゆる種類の音楽を聴くのが好きです。ロックでも、ジャズでも、ク ラシックでも、そのほかでも、何でも。どんなスタイルの音楽を聴いても、わたしは 心地よく感じます。 R:きみが、最初に接したのはどんな音楽だったの? 何がきみに影響を及ぼし、年 を経て、それがどう変わっていったの? 何がきみにインスピレーションを与えるて いるの? それから、どんな音楽をきみは最初にやろうとしたの? M:たぶん、はじまりは、わたしの幼い頃です。わたしにインスピレーションを与え る契機は、主に、芸術への関心と、背景にあります。わたしの祖父はピアニストでし た。わたしは祖父の演奏と音楽的な見方から大きな影響を受けました。それに、わた しには全般的な芸術への関心がありました。祖父がガーシュインの「ラプソディー・ イン・ブルー」のハーモニーを演奏してくれたとき、身をもって(persoenlich)大き な関心がわたしのなかに沸き起こりました。そして、このことが、今日でも、わたし のアクチュアルな音楽的なビジョンに影響しています。  小さいころ、歌と音楽的なテーマをテープに録音して、わたしはオリジナルの作品 をつくりました。わたしの創作活動はだんだんと高まっていき、そして、わたしはそ の創造力をクラシック音楽に移行していくことになるのです。  学校時代の終わりに、はじめて、わたしはいくつかのコンサートの舞台に立ちまし た。この経験が、創造性を強め、高めていくよう、わたしを奮い立たせました。最初 のコンサートでわたしは完全に魅了されてました。ステージに立つということは、な んて素適なことなのでしょう。それがどんな喜びだったかを、わたしは決して忘れま せん。音楽を創造することは、わたしの薬なのです。 R:きみは、きみの音楽で、何を伝えようと思っているの? M:まず、わたし自身を。わたしが影響を受けたありとあらゆる音楽のうえに立つ、 わたしのオリジナルな音楽の表現を。とりあえず音楽的な表現があるということは聞 き手に分かります、それに続いて特別な音だと思うでしょう。わたしは今までいい フィードバックを聴衆のみなさんから受けてきました。つまり、聴き手のみなさんが 満足してくださっていることをわたしが感じれば、そのことがわたしの創造性をさら に高めてくれるのです。そして、わたしは政治的なことを表現しようとしているわけ ではありません。わたしに何かを期待する人たちとの相互作用が、わたしの音楽的な 創造性の元なのです。 R:アドリブでは、何を重視しているの? M:耳がポイントです。わたしがこれまでに聴いたことがあるかどうか。創造性で す。それから、かけあいです。そこに探りを入れる価値があるかどうか。それぞれ、 頑固ですし、ときに性質(たち)が悪いですよ。 R:どうやって作曲するの? きみが、音楽をつくっていくプロセスをお話ししてく れませんか? M:いまはこんなふうです。あるアイデアが心に生まれると、この瞬間から、音楽全 体が展開されていきます。でも、同じように、ピアノの前に座ったときにインスピ レーションは沸いてきます。さまざまなハーモニーがやってきます。映像、あるい は、日常的な手がかりの意味がわたしの心に浮かびます。動物たちのからだの動き、 空気の動きなど、すべてです。 R:きみたちは「る*しろう」の曲を、どうやって作っているの? きみたちは、 セッションしてテーマを仕上げてるの? アレンジはバンド全体の仕事なの? M:わたしの作品はセッションで展開されることはありません。でも、わたしたちは バンドでアレンジしています。 R:「る*しろう」って、どういう意味? M:特別な意味はないんです。菅沼道昭(ドラム)のお父さんの名前が「しろう」と いいまして、そこからとりました。それを、井筒好治(ギター)がフランス語にする と面白いと考えて、それで、わたしたちは「る*しろう」(le silo)になったんで す。 R:「る*しろう」はこれからどうなっていくの? きみたちのこれからのプランは ? 新しいアルバムは? M:アルバム「8.8」をつくり終えたばかりですから、まだ何も考えていません。 わたしとしては、このアルバムの最後のプロセスを締めくくるために、じぶんの考え の中で絶えず成長させて、このアルバムの曲を演奏していきたいと思っています。さ まざまな要素を理解し、インスピレーションを研ぎ澄まし、メンバーとともに、この アルバムを「る*しろう」の音楽的なヴィジョンに近づけていきたいのです。それ と、ライブにも関心があります。とくに、ヨーロッパでライブをしてみたいのです。 第二のアルバムは、2005年の末にレコーディングする予定で、来年早々に、みな さんにお届けできればと思っています。 R:美也子、どうもありがとう。 M:どうもありがとうございました。 VM(=Volkmar Manteiフォルクマール・マンタ イ) http://www.ragazzi-music.de/interviews/lesilo.html                   2005年3月21日 試訳:星 揚一郎(る*しろう 東海支 部員)